僕のリハビリ伝説第二話

僕のリハビリ伝説写真 小説
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 明日への希望以上に、昨日のトラウマにやられているサクキさん。今日は学生時代のことを思い、壁をかきむしっています。これはどこに出しても恥ずかしくない、立派なメンヘラですが、積み重なった苦痛が心身ともにサクキさんを狂わしているようです。

「あの野郎ぉ、ぶち殺してやりたいい……もうこんな人生嫌だぁ、死にたいぃ」

 殺してやりたいとは穏やかではありませんが、セリフの途中から自己嫌悪へと移行しています。私が見るに、二つ、三つのトラウマを同時に思い出し、全てに反応した結果と思われます。サクキさん、なんて多忙なのでしょう!

「サクキさん。もう過去のことで苦しむのはやめましょうよ。彼らはもう、どこにもいないんですよ?」

 みっともない、惨めすぎる、とサクキさんは自分の現状がよくわかっています。それでも誰も見ていない部屋で、思いの丈をぶつけます。

「いる、いるよ。目の前に」

「目の前? まさか幻覚が」

「ネット上ぉ……SNSにいくらでもいる。俺の記憶を支配しているのは、いつもあいつらだ。笑って、見下して、貶められて、忘れろって方が無理だ! 一人残らず消えてしまえばいいと思うさ。でも、世間から消えているのはこっちの方だ。なんてことだぁ!」

 サクキさんは自分をとことん低く見積もっています。憎悪にセットで自虐がついてきます。実際、社会復帰のめども立っていません。リハビリには週に二回しか通っていないし、家ではなにもやる気にならなくて、やろうとしても続かず、原因が薬とわかっていても、できない自分を責め、誇りを失っていくのです。

 私は、才能の精です。自分がどう育つかなんてわかりません。ですが、サクキさんと夢を見ることはできます。サクキさんが苦しんでいる間、同じように苦しんでいる患者がたくさんいます。百人に一人がかかる病気ですし、これからかかる人も数えきれないほどいるでしょう。

 私は、サクキさんが日頃公言している漫画家になれるとは思いません。相当、厳しいでしょう。本人もそれがわかっているから、なおのこと希望が持てないのです。ですが、その苦しみが、いつか他の患者の道しるべになることもあるのではないか、私はそんなことを思うのです。

 サクキさんが、暗くなってから一人外に出ました。寝ぐせのまま、灰色のパジャマを着て、手を伸ばしては、何かを掴もうとしてます。

「俺は、この大宇宙に生きている。光は未だ遠く、星は狂おしい程に輝いている」

 サクキさんは、夜景のことを星と呼びます。入院中、窓から夜景を観ていたのがきっかけだそうです。

 私はそのことを聞いたとき、少しだけ体が大きくなるのを感じました。過去は積み重なっていきます。苦しみに満ちたものかもしれない。ですが上っていくためには、どんなものであろうとまずは積んでいかなければならないのです。

 苦しみの経験でも重なれば、いずれは見上げていた空へと近づいていくのです。

 サクキさん、私があなたの苦しみを、しっかり土台にしてあげます。いつかあなたが顔を上げた時、この世の光があなたの周りに満ちるよう。そこから、また歩き出せるよう。確かな物へと変わっていきますから。

 等身大のあなたと、同じ大きさの私が、並んで歩けるように。

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